第1章 ─ しのぶれど ─
「「は?」」
男と私の間の抜けた声が重なった。
だって、信じられない。
一万圓と言えば、借金を返せて家を建てたとしても、お釣りがきてしまう。
「旦那…正気ですかい?一万ですぞ?千圓の間違いじゃないですか?」
「そ、そうですよ!いくらなんでも一万は高すぎますって!」
思わず男に便乗してしまう。
そんな私に時任さんは呆れたように溜息をついて、グイッと私の手を引っ張った。
肩を抱き止められながら、時任さんは後ろに控えていたお付きの男性に視線を送り、なにやら目配せをしている。
「後は彼が引き継ぎますので…さぁ。君は私と行こう」
ポカンと口を開ける男と、お辞儀をして見送る男性を置いて、彼は私の腕を引く。
「あ、あの!時任さん、わたし──」
「色々言いたいことはあるだろうけど、まずは車に乗りなさい」