第3章 ─ かくとだに ─
驚く私を珍しく強引に引っ張り、停めていた馬車に乗り込むこと約二十分。
着いたのは町外れにある河川敷だった。
強い緑と水の匂い、空は青く澄んでいて、薄い雲がひとつ浮かんでいるだけだ。
まわりに建物はなく、人通りもない。
川のせせらぎだけが聞こえる、静かな場所だった。
旦那様に馬車から降ろしてもらうと、河原の方へ駆け出す。
しばらく走ったところで、たんぽぽの綿毛を見つけて、その場に座り込んだ。
地面は芝生が生えてふかふかなので痛くはない。
「気に入ってもらえたかな」
ゆっくりとついて来てくれた旦那様から、声が掛かり後ろを振り向く。
「はい、とっても。よく来られるのですか?」
「昔はよく来ていたけどね。仕事が忙しくなってからは全く…でも、全然変わってなくて安心したよ」
『静かでお気に入りの場所なんだ』という旦那様にふっと顔が緩む。
そんな場所に私を連れてきてくれたことが嬉しかった。