第3章 ─ かくとだに ─
ようやく動き出した旦那様は、私の手を引いて再び長椅子に座らせた。
「日差しが強くなってきたね。倒れるといけないから、何か飲み物を買ってくるよ」
「それじゃぁ、私が……」
「迷子になるといけないから、ここにいて。知らない人に付いて行っては駄目だよ」
「………すぐ子供扱いするの、やめてください」
拗ねたように頬を膨らませると、旦那様はいつもの穏やかな笑みを浮かべて、雑路の中へと消えていった。
…………良かった。どうやら旦那様はあまり気にせずにいてくれたみたいだ。
ホッと胸を撫で下ろす。
旦那様には、面倒くさい子だと思われたくない。
しばらくして、戻って来た旦那様の手には瓶が二つ。
最初はただの水かと思ったけど、ほんのりと檸檬の味がして後味が爽やかだ。
おかげで口の中がすっきりとした。
全部飲み切ったところで隣に座っていた旦那様が、徐に立ち上がって。
「さて、行こうか」
と私に目配せをするから、自然と腕に手を回した。
「あの、一体……どちらに?」
私の問いかけに旦那様は目を細めて、クスッと小さく笑った。
何その笑い方、格好良すぎて反則です…。
ポーっとしている私に、旦那様は言葉を続けた。
「とっておきの場所だよ」