第3章 ─ かくとだに ─
────あれは私があの子と同じくらいの頃。
母に髪を綺麗に結ってもらって、父に手を引かれながらお祭りに出掛けた日。
屋台の焼き鳥を食べた後に、周りの子が風車を持っていたのを見て自分も欲しくなり、父にねだったのだ。
あぁ……あの風車、大事にとっておけばよかったなぁ
「。大丈夫かい?」
ぼーっと立っている私に旦那様がそっと肩を抱いて、元いた場所へと戻してくれた。
私を長椅子に座らせると、穏やかに微笑んで口を開く。
「風車、無事に渡せて良かったね」
今までのことを見ていてくれたのだろう、旦那様の問いに素直に頷く。
「小さい頃。そっくりな風車を持っていたんです。父に買ってもらって……だけど、無くしちゃって……」
風車だけじゃない。あの時は母もいた。
身体が弱かった母と三人で出掛けることは滅多になくて、だからなおさら記憶に残っていたのかもしれない。
父の大きくて温かい手と、母の優しい笑顔。
「…………もっと、大切にしたらよかった」
懐かしいだけじゃなくて、もっと別の何か。
もう一度、手にしたら分かるような気がして呟く。