第3章 ─ かくとだに ─
それから高級店に並ぶ通りに入り、何でも欲しいものをがあれば買っていいよ。という旦那様に顔が引き攣る。
見るからに裕福そうな旦那様にお店の人が声を掛けるけど『おほほほほ。また来ますので』と愛想笑いでかわし、旦那様の羽織りの袖を掴んでそそくさと退散した。
だって、本気で買ってくれちゃいそうな雰囲気だった。
着物も浴衣も草履も靴も、この先一生困らないほどに買ってもらっているから欲しいものをなんてない。
これ以上贅沢を望んだらきっとバチがあたってしまう。
気がつけばお昼を過ぎていて、高級店から離れて気が抜けたのかお腹が空いてきた。
賑やかな出店の方から、炭火の匂いが漂ってくる。
「あ!旦那様、私あれ食べたいです!」
そのまま旦那様を引っ張って、炭火焼きの屋台の の前に立った。
「焼き鳥ふたつください!」
注文をすると、はいよ!と店主さんが快活な声を上げて、その場で焼き鳥を焼き始めてくれる。
「お昼はこれでいいのかい?」
「はい!ずっと食べたかったんです!」
少し心配そうに尋ねてきた旦那様に、満面の笑みで答えた。