第3章 ─ かくとだに ─
周囲のお店を見ながら、女中さん達に教えてもらった洋菓子屋さんに入る。
まだ開店したばかりだったので、お客さんは私達以外に誰もいない。
お菓子を焼くいい香りが店内に広がって、並んでいるお菓子を全部買い占めたくなるけど、冷静になって慎重に吟味する。
「うー……どれも美味しそう」
ヨダレを垂らしそうになるのを必死にこらえて、大好きなのキャラメルを見つけて手に取った。
これは日持ちしなさそうだから自分用だな。
後は個別に包装された焼菓子をいくつか、これはヤチヨさんと糸魚川さんに。大箱のやつは女中さんや三上さん達に渡して皆で分けて貰おう。
あ、あと佐渡さんは……甘い物好きなのかな?あんまり想像つかないけど、この猫の形をしたビスケットにしよう。
何故かというと、どんな反応するか楽しみだから。
両手に抱えた大量のお菓子を見て、旦那様が唖然としていたので慌てて弁解する。
「全部自分で食べようだなんてしてませんよ!?皆へのお土産の分も入ってますから!」
「ははっ、なるほどね。びっくりしたよ」
旦那様は目尻を柔らかく下げて笑うと『はいい子だね』と褒めてくれた。
そうなんですよ!は大好きな皆にお土産を買えるいい子なんです!
しかし、私がこっそりと食べる用のお菓子を選んでいる間に、旦那様が精算を済ませてしまった。
手で持って歩くには大変な量なので、お屋敷に届けてもらうよう手配する旦那様の背中に、申し訳なさしかない……。
ここで自分が払うっていうのも、空気読まない感じ。
心苦しくなりながらも、好意に甘えることにした。