第3章 ─ かくとだに ─
旦那様は私の言葉に、照れたように苦笑する。
「ありがとう。もとても可愛いよ。連れ去らわれないように気を付けないとね」
「っ~~~~!!」
ひゃあぁぁぁぁぁ!甘い甘すぎる!
すっかりお馴染みとなった光景に、ヤチヨさんを含め女中さん達はニコニコと微笑んでいる。
「それじゃあ、行こうか」
「は、はい!」
踏み台を用意してくれたのでその上に立つと、旦那様が手を差し出してくれた。
手を受け取って馬車の中へと乗り込む。
車内は思ったよりも狭く、旦那様が隣り座ると微かに肩が触れた。
その距離がもどかしくも、嬉しい。
「行ってきます!」
と、馬車越しに声を上げればヤチヨさんを筆頭に『行ってらっしゃいませ』と笑顔で見送ってくれた。
………きっと帰りは『お帰りなさい』と言ってくれるのだろう。
そう考えただけで、胸が温かい。
そうだ。皆にお土産を買ってこよう!
お金の心配はなら大丈夫。
お屋敷に来る旦那様のお客様に、なぜかよくお小遣いを貰っていたから。
たぶん孫にお駄賃をあげる感覚なのだろう、それをコツコツと貯めていたのでお土産ぐらいなら自分で買える。
本日のお出かけは、前から行ってみたかった上野の散策だ。
屋敷から近い街には三上さん達とちょくちょく行ったことがあるけれど、遠出はしたことがなかった。
女中さん達に上野には珍しいものや流行のお店もたくさんあるのでおすすめです!と聞いたことがあるので、前から一度は行って見たいと思っていたのだ。