第3章 ─ かくとだに ─
─そして今に至る。
右肩に椿が咲いた着物に、赤茶色の袴。
女学生風なのは疲れないようにと、ヤチヨさんが気を利かせてくれたから。
「さぁ。出来ましたよ!」
髪は後ろの髪の上の部分だけひとつに結わえて、紅色のリボンを付けてくれた。
鏡に姿を映して、背中側も確認する。
「わぁ可愛い!ありがとう!」
最後に編み上げのブーツを履かせてもらう。
新しいけれど、革が柔らかくて歩きやすそう。
「お嬢様。旦那様がお待ちですよ」
「はーい!」
玄関を出て門の先を見ると、馬車の傍で御者と話す旦那様の背中が見えた。
今日の旦那様は、灰がかった渋みのある青い着物に藍染の羽織をはおっている。
涼し気な旦那様の顔に良く似合う、初夏の装いだった。
「旦那様!お待たせしました!」
「。おはよう」
「おはようございます!……今日の旦那様もとっても素敵です!」
振り返った旦那様の襟元が、いつもより少し開いていてときめく。
綺麗に流れる首筋が色っぽい。
ドキドキを抑えるために胸の前をギュッ掴むと『着物が崩れますので……』と後ろにいたヤチヨさんから注意された。