第2章 ─ こいすてふ ─
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朝が早い旦那様と朝食を取る為に早起きして、日中は勉強と社交ダンスと礼儀作法と、身体も頭もめいいっぱい使う日々。
その疲れで夜もぐっすり眠れている。
そんな充実した毎日を送り続けて二ヶ月が経つ。
季節も春から夏に変わろうとしていた。
「本日のお勉強はここまでにしましょう」
「はい。ありがとうございます」
糸魚川さんに会釈をして、勉強に使った教科書をまとめていると、ヤチヨさんが洋室に入ってきた。
「お嬢様、お疲れ様です。少し休憩に致しましょう」
「はい!糸魚川さんもご一緒しましょ!」
今日は逃げないでくださいね………と付け加えると、観念したように糸魚川さんが頷いた。
「お嬢様には敵いませんね」
「だって糸魚川さん、お勉強が終わるとすぐ帰ってしまうもの」
「お嬢様もお疲れかと」
「全然!むしろ私はもっと糸魚川さんとお話ししたいわ!」
「弥一様のことをお聞きになりたいだけでは?」
「うぐっ……!」
図星すぎて、嘘をつけない。
私が数学の問題に行き詰まっていたり、社交ダンスの練習で弱音を吐けば『これが終われば弥一様の昔の話を致しましょうか』と甘い餌で釣ってやる気を起こさせてくれる。
さすがは時任家専属の教育係、早くも私の扱い方をよく解っていらっしゃる!!