第2章 ─ こいすてふ ─
「お話ししたいことがたくさんあるんですよ。たとえば時任さんの子供のころのお話しとか」
「えー…怖いなぁ。何聞いたの?」
「安心してください。昔は泣き虫な男の子だったと聞いただけですよ」
「………言ったのヤチヨだね」
「あら、本当のことじゃありませんか」
ヤチヨさんのからかう口調に時任さんは眉尻を下げる、耳が微かに赤いような気がする……。
「参ったなぁ。の前では格好いいおじさんでいたかったのに」
「どんな時任さんも格好いいですよ!私の英雄なんですから!」
慌てて口を挟んだ私に、時任さんは少し驚いた顔をしたものの、すぐに『それは光栄だね』と頷いてくれた。
その穏やかな声に、今なら許してくれるかもしれない……と、我儘を口にしてみる。
「時任さん、私……お願いがあるのですが…」
「ん?」
「あの……私も時任さんこと……旦那様と、お呼びしてもいいです、か…?」
うわー言っちゃった………!
このままだと顔を赤くしていることが知られてしまうので、咄嗟に視線を逸らして誤魔化す。
ドキドキと心臓を鳴らして返答を待っていると。
「はは。そんなに可愛らしくお願いをされたら断れないなぁ。少し気恥しいけどがそう呼びたいなら構わないよ」
はにかむようなその笑顔に、そのまま腰が砕けるかと思った。
そんな私に───
「あらまぁ。なんだか初々しいご夫婦みたいですこと」
と、呟くヤチヨさん……最高です。
私は心の中だけで、グッと拳を握った。