第2章 ─ こいすてふ ─
そして彼女に付き添われて、長い廊下を進んでいくと玄関が開く音がした。
早く。早く。
急ぎたいけれど早足は厳禁。
つま先を意識して転ばないようにしていると、お付きの男性と時任さんが何か話ながらこちらに向かっているのが見えた。
ちなみにお付きの男性は、時任さんの秘書で佐渡樹(さわたりいつき)さんという。
お勤め用だろうか今日は濃い茶色の洋装に身を包む時任さんに、私は声をかけた。
「お帰りなさいませ!」
笑顔で出迎えると、私を見た時任さんが驚いたように目を丸くしている。
あれ……?やっぱり、私がお出迎えするのって嫌だったかな?居候の分際で厚かましかった?
不安に思って反応を窺うと、時任さんは安心させるようにニッコリと笑ってくれた。
「ただいま。嬉しいなぁ…こんな雛菊みたいな可愛らしいお嬢さんに迎えらるなんて私は幸せ者だね」
きゃー!これこれ!
雛菊なんて、そんな可愛いお花に例えられる時任さんの感性が素敵♡
ちょっとキザな台詞を違和感なくさらりと言えるのは、この世で時任さんしかいないと思う!