第2章 ─ こいすてふ ─
勉強が終わり、八畳ほどの自室で休んでいるとヤチヨさんがお茶を持ってきてくれた。
「お疲れ様でございます」
「ありがとう。でも、糸魚川さんの教え方はとても解りやすくてすんなり覚えられました」
「それは良かったです。糸魚川さんは旦那様の教育もなさっていたのですよ」
「なんと!」
それは、ますますやる気になってきた。
時任さんに教えたという事は、もちろん昔の時任さんを知っているということで。
「あぁ……羨ましいです。ヤチヨさんも糸魚川さんもこれまでの時任さんの成長過程を見守っておられるのでしょう?ちなみに、時任さんが若い頃はどんな感じだったのですか?やはり今と同じくらい素敵な──」
「あら。旦那様さまがお帰りになられたみたいですね」
うっとりと綴じていた目を開けると、ヤチヨさんがお庭の方に視線を向けていた。
パッと立ち上がりヤチヨさんの横を通り過ぎる。
「私、お出迎えしたいです!」
「はいはい。廊下は走ったら駄目ですよ」
自室から勢いよく出そうになった私をヤチヨさんが呼び止めて、さっと着物を直してくれた。