第2章 ─ こいすてふ ─
「………お嬢様は、弥一様のことをお慕いしているのですね」
少し間を空けてそう言った糸魚川さんに、少し顔を赤くして、はい…と頷いた。
糸魚川さんはそんな私を見下ろして、フッと眉尻を下げた。
朝にヤチヨさんが私に向けた微笑みのように、おやおやこの子は……みたいな。
恥ずかしくなって少し俯いていると、糸魚川さんは『解りました』と深く頷いてみせた。
「それでしたら、お嬢様が弥一様の隣に立たれても恥ずかしくないよう、私も全力で指南致します」
「……はい!よろしくお願いします!」
「一緒に頑張りましょう」
そう優しく笑みを浮かべる糸魚川さんに、最初の不安は消えていてすっかり心を開いてしまった。
その後さっそく礼儀作法の勉強がはじまったのだけど、やはり専属の教育係とあってなかなか厳しい。
だけど前のような神経をすり減らす圧迫感はなくて、厳しくするのは私の為だとちゃんと伝わってくる。
熱心に指導してくれる糸魚川さんの為にも、私に期待してくれている時任さんの為にも頑張らなきゃ……
たとえ火の中水の中、陰謀渦巻く上流階級の中だって、私は上手く泳ぎきってみせる!