第2章 ─ こいすてふ ─
「こ、これは……」
目の前に並べらた浴衣や着物は大量で、他にも色とりどりの装飾品が揃っていて目を丸くする。
「旦那様からです。お嬢様の好みが解らないからとひと通り揃えたみたいですね……」
そういうヤチヨさんも顔が引き攣ってしまうほど、私一人にこの着物の量は多すぎる。
しかもどれも上質なもので出来ていて、総額を考えるだけでも身体が凍りついてしまう。
「こんなに……私、勿体なくて着れませんよ……」
「ま、まぁ。一生ものですし!旦那様もお嬢様が家に来てくれて嬉しいのですよ!……少しやりすぎですけど、とにかく着替えましょう!」
そう言って他の女中さんたちと相談しながら、今日の着物を選んでくれた。
(時任さんに、またお礼言わなきゃ……)
家で着ていた着物は全て借金の糧にしてしまったから、自分の着物はあの控えめな柿渋色の着物だけだった。
こんなにたくさんの新しい着物が着れるだなんて、まるで夢の中にいるみたいにフワフワする。
私、時任さんに大事にされてる…って思っていいのかな。
淡い黄色の生地に小さな菊模様が入った着物に手を通しながら、そんな自分に都合のいい事を期待してみた。