第2章 ─ こいすてふ ─
「あの、時任さんはもうお仕事に行かれましたか?」
「はい。朝からお出になられましたよ」
やっぱりそうかぁ………ああ、お見送りくらいはしたかった。
私のこと家族だって言ってくれたし、そのくらいしてもいいよね?
「ヤチヨさん!明日は私も時任さんをお見送りしたいので、起こしてくれませんか!?」
起きなくても起きるまで叩き起してください!とお願いすると、ヤチヨさんは微笑ましいものを見るように眉を下げてクスリと笑った。
「はい。承知しました。お嬢様も旦那様と朝食をお取り出来るよう致しますね」
「ぜひ!お願いします!」
前から疑問に思っていたけど、ヤチヨさんと弥一さんてどのくらいの付き合いなのだろう。
素直に聞いてみると、ヤチヨさんは弥一さんの乳母の娘さんらしく歳も近いので小さい頃からよく知っているそうだ。
子供の頃の弥一さんは気が弱くて泣き虫だったから、今も弟のように心配なのと、ヤチヨさんが教えてくれた。
二人の仲の良さに納得しつつも、心の底から羨ましいとも思った。
だって、時任さんの小さい時だよ!絶対可愛かったに違いない!見たかったなぁ……!
ニマニマと頬に手を当てていると、ヤチヨさんは私の肩を掴んでクルリと百八十度回転させた。
「さあさあ。まずはお召し物を選びましょう。着物に着替えてそれから朝食を取って、今後の勉強方針など今日は予定がたくさんございますから、休んでいる暇はございませんよ!」
「うぇ?ぇぇぇぇぇぇ……」
立板に水のごとく話すヤチヨさんに背中を押されながら、促されるままに奥座敷へと向かう。
そっか、着替えか……ん?着替え?……そういえば私、一着しか着物は持っていないのだけど……