第1章 ─ しのぶれど ─
遊女の逃亡を防ぐ為なのか高い塀に囲まれたそこは、この門以外に出入りできないと聞いている。
「ボーッとしてねぇで、さっさと歩け!」
門を見上げる私に男が促す。
私はこれから、遊女として身売りされるのだ。
「あのー……遊廓だけは勘弁していただけません?一度遊女になったら出てくるのって難しいのでしょ?どこかの下女になるとかで手を打っていただくとか……一応、花嫁修業はしておりましたので」
恐る恐る頼み込むと、男が振り返って鋭い眼孔で睨みつける。
「借金まみれの没落華族風情が何言ってやがる!選べる立場だと思ってるのか!吉原に連れて来ただけでもありがたいと思え!」
バシッ!と頭を叩かれたけど、どうにか踏ん張った。
解ってはいたけど……やっぱり駄目だったか。
だけど、理不尽な……とは思う。
確かに家は火の車だが、借金を作ったのは私ではない。
それに私は他人に顔向けできなくなるようなことは何一つしていないのに、お家の不始末だからという理由で借金の肩代わりにされるのは納得がいかなかった。
(それでも、もう私しかいないのだから仕方ないけど……)
諦めて、ゆっくりと歩き出す。
吉原まであと一歩というところで、正面から歩いて来た男性に突然腕を掴まれた。