第2章 ─ こいすてふ ─
気持ちよく目が覚めて、何度か瞬く。
知らない天井なのは、時任さんのお屋敷だから!
昨日という運命の出会いを忘れるわけないので、記憶ははっきりとしている。
布団から起き上がると、障子の向こうからヤチヨさんの声が聞こえた。
「お嬢様。お目覚めになられましたか?」
私は乱れた浴衣を直してから、はい!と答えた。
「入ってもよろしいですか?」
「ど、どうぞ!」
「失礼します」
静かな扉が開き柳色の浴衣姿のヤチヨさんが姿を現す。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「はい!お布団も気持ちよくて!」
それに、春の温かい空気に包まれた目覚めはすっきりしていて、久しぶりにゆっくりと眠れたような気がする。
「それは良かったです」
「ところで……今って何時ですか?」
「今は朝の十時を回ったところですよ」
……………やってしまった。
眠れた気がするではなく、ゆっくり眠りすぎだった。
昨日お腹いっぱい食べたのが悪かったのだろうか?
屋敷の皆に挨拶をした後、もう遅いからとささっと湯浴みをしてそのまま寝床に案内されて布団に入った。
枕元にはお香が炊かれてあって、白檀の香りを胸いっぱいに吸い込んで……恐らく、数秒で寝てしまった。
だってそれ以降、記憶がない。
きっと色々あって身も心も疲れていのだろう。
「すみません……寝坊しました」
「ふふふ。いえいえ、今日は疲れているだろうから起こさないようにと、旦那様から言われておりましたのでお気になさらなず」
「時任さんが………?」
「はい」
優しい……!!!
ここにヤチヨさんがいなかったら、畳の上でゴロゴロしたいくらい嬉しい。
そんな時任さんと私は今日から一緒に暮らすの!
幸せを噛み締めて、心の中で身悶える。