第1章 ─ しのぶれど ─
女衒がいう言い値の倍出すと告げると、少女の腕を引いてその場を後にした。
人力車に乗り込んだ少女はひどく混乱していて、話を聞けば一万園という大金を自分ではとても払えないという。
見ず知らずの男にいきなり買われたのだ。
誰だって何か裏があると不審に思うだろう。
不安にさせてしまったことを反省して、返さなくていいことを伝えると少女は俯きながら、消えるような声でお礼を言った。
そっと重ねた手は小さく、力を入れてしまえば簡単に折れてしまいそうな危うさがある。
………まさか、満足に食事を取っていなかったのだろうか?
一体、家になにが……?
色々と聞きたいことはあるけれど、今は聞くべきではないと静かにしていれば肩に軽い衝撃がぶつかった。
視線を向けると、そこにはまるで緊張の糸が切れたように眠る少女の顔があった。
安心したように寝息をたてる姿に、子供の頃に飼っていた子犬が脳裏に思い浮かんだ。
眠たい時には必ず私の横へきて、その小さな身体をピタリとくっつける。
その姿が愛らしく思えて、まるで妹のように可愛がっていた。
(あの時と一緒だ………)
つい、頬が緩んでしまう。
まだあどけない少女の寝顔を見つめながら、私は懐かしい思い出に心落ち着かせた。