第1章 ─ しのぶれど ─
(え……なになに?どうしたの?)
おろおろとする私を置いて、最初に沈黙を破ったのは三上さんだった。
「身請け……旦那様、もしやそのお嬢さんを買ったんですか?」
〝身請け〟という言葉が引っかかったらしい、三上さんは訝しげな目で時任さんを見つめる。
「え、いや、違っ……」
「はい。社長は先ほど、吉原におられました女衒の男から様を一万園でお買いになられました」
誤解を解こうとする時任さんの上から、更に誤解されるような言葉をお付きの人が被せた。
すると、ヤチヨさんが前に出てきて
「見損ないましたよ旦那様!こんないたいけなお嬢様をお金で買うなんて!いくらお嫁さんが来ないからといって、こんな………こんな外道な真似を……」
ハンカチを目に当てながらオイオイと泣き出してしまった。
他の使用人さん達もザワザワとしはじめている。
これは、非常にまずい……
「ち、違うんです!そういうのでなくて───」
私はなんとか時任さんの誤解をとこうと、家の借金ことや、吉原に売られそうなったこと、それを時任さんが助けてくれたこと全てを包み隠さず伝えた。