第1章 ─ しのぶれど ─
皆さんの名前を覚えたところで、隣にいる時任さんが私の肩に手を置いた。
「は子爵である家のご令嬢で、ここへ来たのは……」
と、これまでの経緯を目の前にいる使用人の皆さんに話そうとしていた時。
「失礼します」
という声と共に、三つ揃いをきっちり着こなした二十代後半の男性が座敷へと入ってきた。
黒い短髪の凛々しい顔立ちに覚えがある。
吉原にいた時、時任さんと一緒にいたお付きの人だった。
「様の身請けの件が無事に終わりましたので、ご報告に上がりました」
間髪入れずに淡々と述べる彼の発言に、周りの空気がピリっとしたのが解った。
その場がシーンとなる。