第1章 ─ しのぶれど ─
すると、時任さんの表情が真剣なものに変わる。
一呼吸置いて、私に問いかけた。
「私は、総司さんが君を吉原に売るとはとても思えない……何があったのか教えてくれるかい?」
その言葉を聞いた私は顔を上げて、膝に手を置いた。
「父は……借金を苦に自害しました」
「…………は」
衝撃を受けた表情で言葉を無くす時任さんに、私は続ける。
「三年前に母が病で亡くなり、それから不幸が続くように事業も上手くいかなくなって借金だけが増えていってしまって」
「…………それは、知らなかった」
「はい。父は人に頼らずに自分でなんとかしようとする人でしたから……思い詰めてしまったのだと思います」
人の為にはお金を貸すのに、自分のことで人に迷惑をかけるのは嫌いな人だった。
それで借金も大きくなって、親戚にも助けて貰えなくて、最後には私を置いて死んでしまった。
お人好しで、意地っ張りで、大好きな父だった。
「屋敷を売っても借金を返すことができず、それでやむ無く私が遊郭へ行くことになったのです」
淡々と述べて、私は少し後ろに下がり手をついて頭を下げた。
「ですが、時任さんに助けていただき身売りせずに済みました。返せと言われても返しきれない程のご恩です。なんと言葉にしてお礼を言えばいいか……」
「……頭を上げなさい。私は総司さんに何も出来なかったのだから」
「そんなことありません!私を救ってくださいました!お願いします私に何でも言ってください。どこにだって奉公に行きます。全額は無理でも、少しずつお金は返します!だから──」
「頼むから頭をあげて、私の顔を見なさい」
畳に頭を擦りつける私の肩に、暖かい感触が触れた。