第8章 ─ はるすぎて ─
「大丈夫ですよ。私が誰よりも元気だと旦那様が一番よく知っているでしょう?それに、旦那様を残していなくなったりしません」
「………」
「約束しましたよね。旦那様の人生は私のものだと」
そこで一度、言葉を切る。
とても、大事な約束。
「この先、旦那様が命尽きるその日まで、私はあなたの傍にいます。最後まで旦那様は私のなんですよ」
溢れるくらいの愛をくれた旦那様に、私が返せる唯一の贈り物。
「旦那様は自分がいなくなってしまったら、私が寂しい思いをすると心配しますよね。ですが、大丈夫です。私にはあなたとの子供と、今までの素敵な思い出がたくさんありますから、悲しくても、笑顔でいられます」
賑やかに、できるだけ笑って……それでも、寂しいと泣いてしまうけれど、きっと大丈夫。
だからどうか、そんな顔はしないで。
少しの沈黙の後、旦那様はふっと肩の力を抜いて微笑んだ。
「を……はじめて見た時……守ってあげたいと思ったんだ」
懐かしむように私を見つめる。
もうその目は影を落とすことなく、穏やかに凪いていた。
「今では、私がに守られているようだね」
心の底から、嬉しそうに笑っくれたので、いつものようにぎゅっと抱きつこうとすると、お腹にやんわりと掌を当てられた。