第1章 ─ しのぶれど ─
「え、帝都紡績!?」
時任さんが社長を務める会社の名を聞いた瞬間、お箸を持つ手が止まった。
「帝都紡績って……あの、帝都紡績ですか!?」
耳を疑ってしまう。
帝都紡績といえば、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで売上を伸ばし、政府も一目置いているという、とんでもなく大きな紡績会社だ。
東アジアや東南アジアの輸出が止まった欧州に代わって、さらに業績を伸ばしているという。
「あら、ご存知ありませんでしたか?」
コクコクと頷くと。
嘘でしょ……この子信じられない……
と言いたげに、ヤチヨさんが驚いていた。
「先代の社長、つまり旦那様のお父様が設立なされた会社を旦那様が継いだのですが、それからみるみる事業が拡大しまして今の帝都紡績があるんですよ」
「へぇー…時任さんてかなりやり手な方なんですね」
高貴な人だとは思っていたけど、ここまで凄い人だとは思ってなかった……。
いや、でもそのくらいでないと、一万園もの大金を私のような小娘に払わないか…恐るべし帝都紡績社長。