第8章 ─ はるすぎて ─
「……私にはより大事なものはないから、君が身体を崩すたびに、子などやめておけばよかったと後悔してしまう……そう思う私は、父親失格だ…」
私の視線から逃れるように肩に重みがかかる。
ふわりとした旦那様の髪が頬に触れた。
…………ああ、そういうことか。
旦那様は大人で、素敵で、格好良くて、渋くて、優しくて……そして、ほんの少しだけ弱い。
旦那様のお母様は旦那様を産んだ後に、三度ほど子が流れてしまい身体を悪くして亡くなったと聞いたことがある。
私を過度に心配してしまうのも、私を失いたくないという旦那様の優しさだろう。
「……女の人は子がお腹にいるときから母親ですが、男の人は産まれてからでないと父親としての自覚を持てないと聞きます。ですから、旦那様が不安に思うのは当然のことですよ」
今度は私が旦那様を抱き締めて背中を撫でる。
私はここにいるから大丈夫だよ。と伝わるように、何度も優しく撫でた。
「それに旦那様ことですから、いざ産まれてみると可愛くて可愛くて仕方なくなりますよ。私の時のように!」
おどけてみせると、旦那様も少し笑ってくれたのが気配で分かった。