第7章 ─ きみがため ─
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それから二時間、無事に祝言は終わり自室に戻った。
女中さん達に着替えを手伝ってもらい、湯浴みの後は白地に紺色の蝶が描かれた、真新しい浴衣に身を包む。
「旦那様がお呼びです」
そう言われて、心臓がドキリと跳ねた。
ついに来た……旦那様が呼んでるってことは……つまりは、夜を共にするってことだよね……?
この後行われるであろう営みについては、糸魚川さんが紹介してくれた作法の先生(女性)から大まかには教わっている。
旦那様にお任せしたらいいと仰っていたけど、本当にそれでいいものか……。
どうしよう……あんなに望んでいたのに、いざとなると緊張して心臓が爆発してしまいそう。
「様をお連れしました」
「ああ。入りなさい」
旦那様の部屋の前で声を掛けた女中さんは、スっと障子を引くと、始めて足を踏み入れる部屋は二十畳はあろうかという広い和室。
その隅に置かれた木製の机の前に、旦那様が座っていた。
何か書物を読んでいるらしく、顔は手元を見たままでこちらを見ない。
女中さんは私が部屋に入ると、障子を閉めてすぐに下がっていった。