第7章 ─ きみがため ─
五十畳はあると思われる広い和室に集まった時任家の列席者は、旦那様の親戚の方はもちろん、帝都紡績の責任ある立場の人や、取引き先の重鎮ばかり四十名ほど。
一方、今まで顔も見せなかった私の親族が十名ほどいる。
恐らく、私が帝都紡績の社長に嫁入りしたから、手の平を返しに来たのだろう。
お父様が借金をした時も、私が遊郭へ行く時も、何も助けてくれなかったくせに。
息巻いて追い返そうとしたら、旦那様に『まぁまぁ、いいじゃない』と宥められたので今回は我慢することにした。
旦那様が穏やかな人じゃなかったら、この場が私の打掛のように朱く染まっていたかもしれない。
色々言いたいことはあるが、おめでたい席なので教わった通りに婚礼の義を進めていく。
緊張しながら旦那様と盃を交わした後は、豪華なお膳が用意されていた。
食事を楽しみつつお酒が入ってくると、しばらくして場の雰囲気が和んでくる。
私は旦那様と一緒に、列席者ひとりひとりにお酒をついで、お礼の挨拶をして回った。
「弥一君、こんな若くて別嬪な娘さんがきてくれてよかったなぁ!いつまでも嫁を取らないから心配だったんだよ!これで子が出来れば、帝都紡績も安泰だ!」
「ははは……そうですね。私にはもったいないくらいですよ」
「あら嫌ですわもう、気が早いですよー!」
旦那様が少し恥ずかしそうにする後ろで、私は満面の笑みを浮かべながら返事をする。
酔ってるとはいえ旦那様の叔父様……もっと言って!特に子の部分を強く!