• テキストサイズ

*喋よ花よ*-大正色恋浪漫-

第7章 ─ きみがため ─



今すぐ駆け出したい気持ちを抑えて、自室を出ると日本園庭が一望できる廊下の先に、紋付き袴姿の旦那様が見えた。


あぁ……もう、素敵……素敵すぎて、このまま倒れちゃいそう……。


これほどまでに完璧な人が、私の夫だなんて信じられない。

本当に私……旦那様のお嫁さんになるんだ…。

鼓動が早まりどうにもならない、打掛が下に着かないように持って彼に近づく。


「。とても綺麗だよ」


旦那様が手を差し伸べて、私に声を掛ける。

〝〟いつも呼ばれている名前なのに、なんだか今日は特別なもの聞こえて……。

それに『綺麗だよ』って言って貰えて、感激でまた瞳が潤む。


「旦那様も素敵です……こんな私ですが、末永くよろしくお願いします」

「こちらこそ。さぁ、行こうか」


大好きな大きな手に手を重ねると、旦那様は優しく笑ってくれた。


ねぇ…お父様、お母様 どこかで見てますか?

私、とっても素敵な人と幸せになります。

だから、もう大丈夫だよ。


旦那様に会ったあの日から、私の人生は暗闇から抜け出したように色付き始めた。

初めて褒めてくれた着物、赤い風車、椿の風鈴、頭を撫でてくれる優しい手、穏やかに相槌を打つ声、腕に手を回した時の心地よい体温、そして、私に向ける柔らかな微笑み。

旦那様がくれたもの全てが、私の空っぽだった心をたくさんの愛で満たしてくれた。

たくさんありすぎて、もう返せるか分からないけど、私も旦那様を幸せにしたい。

旦那様と手を握り、お屋敷の広間に向かってゆっくり足を進めながら、そんなことをひとり考えていた……。



/ 132ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp