第6章 ─ ちぎりきな ─
あ、その前に旦那様の誤解を解いておかないと……
抱きついていた身体を一旦、そっと離した。
「旦那様。私、樋口さんに旦那様のこと聞いていたんです」
「……私のこと?」
「はい。外での旦那様のことが知りたくて………樋口さんの叔父様と旦那様が仲が良いとか、犬が好きだとか、他の社員さんにも色々と教えて頂いてて……楽しそうに見えたのなら、それはきっと旦那様の話をしてたからですよ!」
私がそう言い切れば旦那様は少し驚いて、最後にクスっと喉の奥で笑った。
「なるほどね……樋口君が私に向けたあの生温かい視線は、そういう意味だったのか。それに皆に聞き回っていたなんて、はホントに困った子だね」
え、なんか悪いことしちゃったかな……と、内心焦っていたら、旦那様は頬にかかった私の髪を、指で耳の後へと流す。
「今頃、私達の噂をされているだろうね。そうなると、もうを誰にも紹介することはできないなぁ」
ムッとして頬を膨らませる。
「紹介しなくていいです。それに、また私に男の人を会わせたりなんかしたら、もう旦那様とは口を聞いてあげません!」
拗ねる私に旦那様は微笑んで、耳朶を指で擽るように撫でる。
「は怒っていても可愛いね。可愛いすぎておかしくなってしまいそうだよ。が望むのなら、私はもう君をどこへも離してやれない」
普段の穏やかさとは別の、熱さを含んだ言葉が耳に入って、ぶわっと顔が赤くなった。
なにか返事をしなくては……と必死で頭を回転させる。
『離さないでください』は、普通だし、もっとこう、私の心の奥にある本音を返したい。