第6章 ─ ちぎりきな ─
「」
私が何かを言う前に、旦那様が口を開いた。
恐る恐る顔を上げる、目の前の人は秋の木々のような静けさを纏って、今にも泣きそうな顔で私を見つめていた。
「本当に、私でいいのかい……?」
そっと確かめるように聞く旦那様に、甘い期待をしてしまう。
「……旦那様がいいんです」
「これから君は日に日に美しくなる、もしかしたら誰かに恋をするかもしれない。その時に私の存在は枷になり傷となってしまう。それでもいいんだね?」
「私は、旦那様しか好きになりません……もしも他に心移りするようなら、行くなと私を叱ってください」
旦那様が一瞬、息を飲んだ気配がした。
そして、とろり、と蕩けそうな艶やかな微笑み。
「……私はね、が可愛くて可愛くて仕方がないんだ。このままではこの愛らしい君を手放せなくなってしまうと、そう思う自分が恐ろしくて、怖かった」
自分が、怖い……?
私を手放せなくなるって……
それは───…
「君が思っているよりも、私は臆病な男だ。悲しませるようなことをしてしまってすまない。は今までずっと私を慕ってくれていたのに、逃げていた私をどうか許して欲しい」
「旦那様……」
「、愛してるよ。これからは私の妻として傍にいてくれるかい?」
真っ直ぐに見つめられて、瞳の中に目を赤くした私が映る。
夢……じゃない、よね……?
だって旦那様は私のことを『可愛い』とは言っても『愛してる』なんて言ってくれたことはなかった。
しかも、妻に……って。
「ほ、ほんとに…?私を、旦那様の…お、お嫁さんに、してくれるの?」
「あぁ。こんな私で良ければね」
「……………っ」
嬉し過ぎて勢いよく抱き着くと、旦那様は両手で受け止めてくれた。
逞しい胸、優しい匂い。
……好き、大好き………!
どうしよう。また泣いてしまいそう。