第6章 ─ ちぎりきな ─
「……私は、旦那様がいないと笑えません。幸せになれません。他の人では駄目なんです。頭を撫でられるのも、頬に触れられるのも、腕を組むのも、駆け寄るのも、子供みたいに甘えるのも……全部、旦那様じゃないと嫌なんです」
一方的な思いを押し付けるなんて、昔の冷めた自分ならみっともないと笑ったかもしれない。
「旦那様、は………」
潤んだ視界の中、顔上げて旦那様を見つめる。
「旦那様は私の全てなんです。他の人なんていらない、欲しくない。もう、お嫁さんにしてなんて言いません。養女でも使用人でもなんでも、旦那様の傍にいれたら、他に何も要りませんから……だから、捨てないでください……旦那様まで失ったら、私は……幸せに生きていけない」
迷惑だと思われても傍にいたい。
旦那様の気持ちを無視して、困らせてしまうと分かっているのに願う私は、どうしようもなく面倒くさい子だ。
でも、素直に引いたりなんか出来ない。
だって、私にはこの人だけだから、絶対にこの人だけは譲れないから。
一気に言って唇を噛む。
そうしないと、子供みたいに泣き喚いてしまいそうだった。
痛いくらいの沈黙が流れる。
どうしよう、旦那様が本気で困ってるのに……謝らなきゃ、でも諦めたくない……今度こそ嫌われてしまうかも。