• テキストサイズ

*喋よ花よ*-大正色恋浪漫-

第1章 ─ しのぶれど ─



手を取って、地面に足を付けると、目の前には立派な二階建ての日本家屋が建っていた。

瓦の切妻屋根の屋根の向こうには、大きな松の木が見える。


(私の住んでいた屋敷の二つ分くらいあるんだけど……)


呆然としてると、車夫に料金を支払った時任さんから後を着いて来るよう促された。

門を潜ると、和風建築のお屋敷の二階に簀子の縁側が見える。

あそこでお月見しながらお団子食べたいなぁ……なんて、呑気なことを思っていたらグゥーっとお腹の虫が鳴ってしまった。


「あ"……すみません。今日なにも食べてなくて……」


吉原へ行く為に昨日の夜に屋敷を出たからね。

それにしても、遊郭へ売られそうになってるわ、車で眠りコケるわ、お腹は鳴るわで、時任さんに情けないところしか見せていない。

穴があったら入りたいとは、このことだ。

絶対呆れられてる。追い返されるかも。とドギマギしながら時任さんの顔色を窺うと。


「それはいけない。すぐに食事の用意をするよ」


と言って、玄関の戸を開けると誰かに向かって声を掛けていた。

話し終わった時任さんが、こちらに振り向く。


「すまない。急用の電話が掛かっているみたいで、屋敷の中へ入って待っていてくれるかい?食事は用意したから先に食べてるといい」

「は、はい……解りました」


時任さんは見ず知らずの私を家の中へ上げると、スタスタと廊下を進みどこかへ姿を消してしまった。





/ 132ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp