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呪術夢短編集

第3章 空虚の心を満たすもの(七海 R-18)


「後ろに下がっていてください」

 突然腕を掴まれ困惑する女にそれだけを告げると、自分の背中に手を回す。ジャケットの下にある鉈の柄を掴み取ると、目の前にはあの呪霊が迫っていた。背中には無数の目玉がついていたが、腹には幾つも涎を垂れ流す口が点在している。とことん醜悪な存在だ。彼の背後では絹を裂くような悲鳴が上がっていた。しかし、七海はそれを特に気にすることもなく、冷静に呪霊の全長の七対三となる部分に鉈を振り下ろしていく。自分より格下の呪霊は、それだけで耳を塞ぎたくなるような醜い叫び声と共に消え去った。血を払うように鉈を振ってから、再びジャケットの下へとしまい込む。庇った後ろを振り返れば、腰を抜かして座り込む例の女が、唖然として自分を見上げていた。

「大丈夫ですか、お嬢さん」

 そう言って彼女に手を差し伸べる。女ははっと我に返ると「はい」と言ってから顔を赤らめ、おずおずと差し出された手を取った。白く華奢な手だ。場違いにもそんな事を思いながら、七海はその手を握り締め、彼女を立たせてやる。

「あ、ありがとうございま……す!?」

 未だに先程までの恐怖が抜けきらぬのか、立ち上がった瞬間に女の足元がふらついた。咄嗟に彼女を抱き留めてやれば、赤らむ程度だった顔が熟れた林檎のように染まる。まるで初な少女ような反応だ。さしもの男も、これには悪い気はしなかった。
 何だろうか、この感じは。久々に人間らしい何かが、胸の奥から込み上がってくるような気がする。そんな事を考えていると、七海の口からは自身も思いも寄らない言葉が突いて出ていた。
「随分と怖い思いをされたようですね。気持ちを落ち着ける為にも、よろしければ私とお茶でもしませんか?」
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