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呪術夢短編集

第3章 空虚の心を満たすもの(七海 R-18)


 元々はある呪詛師のグループからの依頼があったのが始まりである。その依頼の内容というのが、ある女を殺して欲しいというものだった。名前は、真上小夜子と言うらしい。理由を尋ねれば、その女は界隈でも有名な「呪い憑き」であるらしく、しかも当の本人には自覚が一切ないそうだ。これまでも、手持ちの呪霊を用いて幾度となく殺そうとしてきたが、それも女の中に眠る呪いによって、悉く返り討ちにされているのだと言う。
 話を聞いただけだと、七海は死ぬ程どうでも良いと思った。だが、金払いも良いし、丁度欲しかった時計もあったので、何とは無しにその話を受けることにしたのだ。
 渡された写真に写っていたのは、まだ二十歳になったばかりであろう年若い女であった。柔らかな微笑みを浮かべるその姿は、これまで数々の呪詛師を打ち負かしてきたようにはとても思えない。こんな女の中に、どんな恐ろしいものが眠っているというのだろうか。先程の呪詛師の言葉が信じられず、思わず写真の中の女をまじまじと見つめてしまう。
 何度見ても、こんな地獄とは無縁そうな笑顔だ。品性を感じさせる顔立ちが、七海には中々に刺さるものがある。

「正直、顔は好みだな……」

 冷めかけた珈琲に口をつけてから、そんな下らない事を呟いていた。


 そして運命の日がやってくる。
 それはある日の祝日だった。どうやってこの女に近付こうかと、七海が周辺情報を洗い出しながら作戦を立てていた時、女の方から七海の方に近付いてきたのだ。いや、女の方もその気があって近付いてきた訳ではない。逃げていたらその先に偶々、七海が居たというだけだ。

「あ、あの!逃げてください!」

 誰もいない工事現場の奥から現れた女は、涙に濡れ、恐怖に青褪めた顔で七海に向かってそう叫ぶ。彼が女の後ろの方に視線を向けると、そこには背に幾つもの目玉を持ち、ヤモリのように壁を這いずり回る気味の悪い蛙のようなものがいた。
 これは呪霊だ。それも準一等級相当の力を持った、強力な呪霊である。勿論一級の呪詛師である七海の敵ではないのだが。
 一瞬、自分に依頼してきた呪詛師のグループの手駒かと思ったが、近くに術師がいる気配はない。ならばこれは、純粋に彼女に引き寄せられたものなのだろう。七海はそう分析した後、女の腕を引っ張ると、自分の背に庇った。
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