第5章 初詣(七海)
神社の境内に辿り着いた時、そこまで人の姿はなかった。時間としてはそろそろ正午に差し掛かりそうな時分か。初詣としては割りかし中途半端な時間と言えよう。小夜子が時間をずらして来るようにしたのだと、なんとなくそう思った。
手を清め、少ない列に並び、お参りをする。日本人なら毎年のルーチンと化しているこの行動も、何時もと違う状況、服装だと新鮮な気持ちになる。高専を出て以来、こうして誰かと初詣にくるなんて何時ぶりだろうか。ましてや恋人と訪れる日が来ようとは、嘗ての七海なら思いもしなかったに違いない。
七海が形式ばかりの二拍二礼一拍を済ませると、まだ小夜子の方は願い事をしている最中であった。そんな彼女の横顔をなんとなく見ていると、願い事が終わった彼女と目が合う。小夜子は花が咲いたような笑みを浮かべて、それから前に向き直るとぱんぱん、と二回柏手を打ち頭を下げた。
「ごめんなさい、待たせてしまったかしら?」
そう言うと、小夜子はすぐに自分の腕を七海のそれへと絡めてくる。七海は彼女の言葉に頭(かぶり)を横に振った。
「いえ、そんなことは。それより一体どんな願い事を?」
ふと愛おしい恋人がどんなの事を神に頼んだのか気になり、尋ねてみる。彼女は七海の問いかけにより一層体を密着させると「なーいしょ」とだけ返してきた。子供っぽい仕草と口調に思わず苦笑してしまう。
「教えてはくださらないんですね」
「今はね。来年また一緒に初詣に行ってくれたら教えてあげる」
彼女の言葉に更に笑みを深くすると「では来年の元旦を楽しみにしておきましょう」とだけ言った。
睦まじく帰っていく恋人達の初詣はこうして終わりを遂げた。2018年の1月1日の出来事である。