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呪術夢短編集

第3章 空虚の心を満たすもの(七海 R-18)


「建人さん、どうかしたの?」

 物思いに耽る男の耳朶を、愛おしい声が震わせる。声の方へと目を向ければ、自分の腕の中で眠っていた恋人が、寝ぼけ眼のままにこちらを見上げていた。

「貴女と初めて会った時の事を思い出していました」

 そう返せば、彼女はふふっと笑って「あの時一目惚れしちゃったのよね」などと言ってくる。可愛らしくて堪らなくなり、その額へと口付けた。そのまま唇で鼻筋をなぞり、軽く唇を奪い、顎から首筋の輪郭を擽っていった。小夜子の唇からは笑い声と、時折甘い吐息が漏れる。思わず雄の本能が刺激され、そのまま覆い被さっていた。

「もう一回するの?」

 白く柔い腹に押し付けられた質量を感じながら、小夜子は悪戯っぽく尋ねてくる。そんな彼女にもう一度口付けて、七海は「一回で済ませる自信はないですね」と返していた。
 深く口付けしながら小夜子の脚を広げ、その中心に腰を落としていく。乙女の蕩けきったそこに七海の腹の熱が沈み込むと、口付けた唇の合間から、再び甘い吐息が零れ落ちた。七海はそれを食い尽くすように、更に深く唇を貪る。
 小夜子とのこうした行為は、七海建人にとって至上の快楽であった。会社を滅茶苦茶にしたに感じたものなど、これと比べたら快楽の内にすら入らないだろう。セックスもそうだが、ただ触れ合うだけでも、彼女は七海建人という男の空虚な心は満たしてくれる。触れ合う度に、繋がる度に彼女の愛が空の心に注がれていくのだ。言うなれば、真上小夜子は空っぽの自分の前に突然現れた、自分にだけ愛を傾ける存在だった。そんな存在に溺れないでいられる人間などいる筈がない。
 最初は殺す為に近付いた。殺しやすいように、返り討ちにされないように信頼を得て、確実に殺す。その為に近付いた筈だったのだ。しかし、写真に写った笑顔と同じものを向けられている内に、自分の中に芽生えた気持ちを自覚させられていった。愛してしまっていたのだ。いや、正確には写真を見せられたあの時、既に一目惚れをしていたのだと今なら分かる。そうでなければ、あんな場面で口説いたりなどしていないのだから。
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