第2章 呪いは胎児の夢を見る(真人 R-15)
なんの疑いもなく、本当の善意からそう思っているのだ。“救うためには、まず殺さねば”と。肉体という枷から解き放たれてこそ、初めて人間は救われるのだと。そんな彼女は、真人が人を殺す度に責めるということなどはしなかった。寧ろ「主の御下へと導くだなんて、真人さんの行いはなんと素晴らしいことでしょう」と褒めてくる。怒ると言っても、それは死体を放置している場合のみで、それもちゃんと改めれば、頭を撫でて「真人さんは良い子ですね」とやはり褒めてくれた。
元来呪いである真人は褒められたり、怒られたりというのを余り気にしたことは無かったが、こうも愛情たっぷりに褒められるとなると、話はまた別だ。次第に褒められることに喜びを感じ、率先して彼女が褒めてくれること、喜んでくれることをするようになる。こうして気がつけば真人は、目の前の破滅の聖母を愛していた。
彼の彼女に対する愛は母親に向けるようなものであったり、恋人に向けるものであったりと様々なものが入り混じっている。そこに初めて彼女と交わった時の衝動が加わり、現在の胎内回帰の願望を抱くようになった。真人は彼女の子宮の中に還り、育まれ、そして彼女の膣を通り、彼女の子として産まれ堕ちたいのだ。
「でも、まだその時じゃないんだよね。ここに入る前にやることが沢山あるからさあ」
彼女の腹から離れ、次はその胸元に顔を埋めると真人は残念そうに呟いた。しかし、離れたもと言っても、つぎはぎだらけの手はそこを愛おしそうに擦っている。女は「手で触るのは駄目ですよ、真人さん」と言って頬を染めながら、彼の手を静止した。真人はそれに「ごめんごめん、感じちゃうんだっけ」と謝りながら手を放す。
「早く全部終わらせるよ。だから、全部終わったら俺のこと孕んでね」
本当に呪わしい存在なのかと疑わしくなるような、無邪気な微笑みで彼はそう告げると、女に口付けた。