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呪術夢短編集

第5章 初詣(七海)


「私、建人さんと和服で初詣に行きたいわ」

 全てはその一言から始まった。七海はそれまで読んでいた本から目を外し、発言の主である恋人の方を見る。にこやかに微笑む彼女は、手にした二人分のコーヒーカップの内一つを七海に手渡すと、彼の腰掛けているソファの隣へと座った。

「駄目かしら?」

 彼女はそう言いながら小首を傾げ、七海を上目で見つめる。七海は彼女のそんな仕草を可愛らしく思いながらも、受け取ったカップの中身を一口飲むと、カップを目の前にローテーブルへと置いた。

「いいえ、構いませんよ」

 慣れない人間にとっては、極めて平坦で淡白。そんな声色で彼は返事を返す。だが、彼の隣に座る恋人は、それだけの短い返事に笑みを深くし「ありがとう。楽しみだわ」と言って、彼の腕に抱き着いてくるのだ。一挙一動が可愛らしく見え、七海は思わず目元と口元を緩める。

「私も小夜子さんの振袖姿、楽しみにしていますね」

 彼女の頬に掛かった髪を空いている手で耳に掛けてやりながら、七海はそう返した。小夜子と名前で呼ばれた彼女はふふっと笑い「建人さんにそう言われたら、私もうんと綺麗にしなくちゃね」と言う。どことなく甘やかな雰囲気の中、こうして七海建人は初詣で和服を着ることとなった。


 元旦当日、早朝と言える時間帯に起き、新年の挨拶を済ませる。それから奮発して買ったお節などを食べ、少し談笑していると玄関の呼び鈴がなった。小夜子はそれに反応し、ドアホンを確認するとそのまま扉を開けに行く。おそらく相手に心当たりがあるのだろう。
 少しの間小夜子の様子を見守っていると、彼女に引き連れられて数人の人間が恋人達の居住空間へとやってきた。何かの業者だろうか。ただの客には見えなかった。小夜子は七海の様子から何かを察し「私達の着付けえをしてくれる着付け師の人達よ」と言う。そう言えば和服を着て初詣に行くとなったその日に、彼女が元旦に来てくれるよう頼だと伝えられてたなと思い出す。
 七海がそうやって以前の出来事を思い返していると、着付け師の1人に促されてしまった。
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