第9章 こんにちは赤ちゃん【暖和】
「そろそろ皆さんが来る時間なので、先にお茶菓子を持って行ってもいいですか?」
哺乳瓶を洗い、専用の洗浄液に洗い終わった哺乳瓶を慎重に落としながら私がそう問うと、
「構いませんよ。何人お見えになるんでしたっけ?」
と、瑠火さんが戸棚に向かいながら言った。
瑠火さんにそう聞かれ、私は頭の中で今日奏寿郎に会いにきてくれると言った顔ぶれを思い浮かべる。
カナエさん
しのぶさん
蜜璃ちゃん
「いつもの女子会メンバーなので3人です」
「ということは、甘露寺さんがいらっしゃるということですね。それではたくさん持って行ってあげてください」
そう言うと瑠火さんは、いつそんなに買い込んだんですか?と聞きたくなるほど沢山のお煎餅やらクッキーをお菓子のカゴに沢山入れ、私に渡してくれたのだった。
でも…蜜璃ちゃんが本気で食べたら一瞬でなくなっちゃうんだろうな。
そんなことを考えながら
「ありがとうございます」
カゴを受け取り、これから訪れる楽しい時間に思いを馳せながら杏寿郎さんと奏寿郎の待つ部屋へと足をすすめた。
部屋に戻ると、杏寿郎さんは胡座をかいて座ってはいるものの、その腕の中にはまだ奏寿郎がしっかりと抱き抱えられていた。
「寝ませんか?」
いつもならミルクをたらふく飲むと、コロリと寝てしまうはずなのに。
そう思いながら杏寿郎さんの腕に抱かれた奏寿郎を覗き見ると、スヤスヤと安らかな寝息を立て眠っていた。
「いいや。あのまま眠ってしまった。だが離し難くてな…そのまま抱かせてもらっている」
杏寿郎さんはそう言うと、奏寿郎に顔を近づけ、クンクンとその匂いを嗅いだ。
「そうですか」
その様子に、私の口角は自然と上がってしまう。
「千寿郎がこのくらいの時も思っていたのだが、赤子とはなぜこんなにも甘い匂いがするんだろうか?」
そう言いながら杏寿郎さんは、奏寿郎の匂いをスーハーとまるで深呼吸でもしているかのように更に激しく嗅いだ。
「ふふっ…どうしてでしょうね。でも男の子だけあって、たまにですけど、しっかりと男って感じの匂いもする時がありますよ」
「そうなのか?俺には全くわからない」
杏寿郎さんはそう言うと、自分と同じ特徴的な奏寿郎の眉毛をスッと撫でた。