第9章 こんにちは赤ちゃん【暖和】
ゲフッ
「うむ!いいゲップが出たな!さすが奏寿郎だ!素晴らしいぞ!」
そう言ってミルクの後のゲップ出しがどうにも苦手な私の代わりに、奏寿郎を抱き、ポンポンと背中を叩き見事なゲップを出させることに成功した杏寿郎さんは眉を下げ、とても優しい視線を奏寿郎に向けている。そして、杏寿郎さんの肩に頭を預け、今にも眠りに落ちてしまいそうな奏寿郎の満足感溢れる顔は信じられない程に愛らしい。
杏寿郎さんも、奏寿郎も…可愛いが過ぎる。
「杏寿郎さん、私哺乳瓶を片付けてきますね」
「うむ!では俺はこのまま奏寿郎を抱いていよう」
「はい」
哺乳瓶を手に持ち、チラリと愛する2人の様子を見る。奏寿郎をその大きな腕に抱き、ゆらゆらと揺れながら息子の顔を愛おし気に見つめる杏寿郎さんはとても幸せそうだ。その姿を見ていると、私の心も幸せで溢れかえる。
音を立たないように静かに襖を開け、スルリと廊下に出る。振り返り襖を閉めると、私は台所へと向かった。
奏寿郎が産まれてから1ヶ月と少し。初めての子育てで戸惑ったり、時には落ち込むこともあったが、杏寿郎さん、瑠火さん、千寿郎さん、そして時には槇寿郎様の助けにより奏寿郎はとても順調に、スクスクと育っていた。
台所に着くと、そこでは瑠火さんがお茶を淹れている所だった。
「…今日も奏寿郎は食欲旺盛のようですね」
私が手に持つ空になった哺乳瓶を見つめ、瑠火さんは目尻を下げながらそう言った。
「はい。母乳も…たくさんあげてるんですけど、それじゃあ足りないみたいで。流石は杏寿郎さんの子と言いますかなんと言いますな…」
思わず苦笑いになってしまうのは、あげてもあげても奏寿郎からの要求が尽きず、たくさん食べているはずなのにどんどん体重が減ってきている自身の身体事情を憂いてのことだ。1ヶ月検診の際も、助産師さんが奏寿郎の体重をそれはもう絵に描いたような素晴らしい2度見で確認していたことも記憶に新しい。
「心中お察しします」
そう言った瑠火さんの目は、じーっと哺乳瓶に向けられており、きっと杏寿郎さんが今の奏寿郎くらいの時のことを思い出しているのだなという事が伺いしれた。