第45章 このまま犬になりたい✳︎不死川さん
師範はそんな私の反応に
「…ははっ!お前やっぱあいつにそっくりだなァ!」
楽し気に笑った後
「……あの馬鹿、お前見たら喜びそうなんだがなァ…あぁでも、あいつにお前見せたら、ここで飼いてェだとか言って騒ぐなァ…まぁそれはそれで悪くねェか。…ったく、さっさと帰って来りゃァいいのによォ」
そう言いながら私の身体を抱き上げその厚い胸元に収めた。
そんな師範の一連の言動に
……なんか……くすぐったい
大きな尊敬と少しの恐怖(…やっぱり少しじゃない)以外の感情がピョコンと私の胸の奥に芽吹いた気がした。
師範はいつも稽古はしっかりとつけてくれるし、時には稽古と任務でヘロヘロな私の為に文句を言いながらもご飯を作ってくれることもある。
けれどもそれは、仕方なく迎えた弟子の為に仕方なくやっているのだと思っていた。本当は”いなくなって欲しい”と思っているんだろうなと…ずっと思っていた。
けれども、つい先ほど”さっさと帰って来りゃァいいのによォ”と言った師範の表情は本当にそう思っていることがしっかりと感じ取れるそれで
……私の帰り…待ってくれてるんだ
私は、どうしようもなく嬉しくなってしまい、クゥンクゥンと鳴き声をあげながら、ゆるく着た着流しの間から露わになっている師範の胸板に、顔の側面をスリスリと擦り付けた。
師範は、そんな私の行動に応えるように私の眉間を撫でつけると
「……そろそろ寝るかァ」
居間から廊下へと続く襖を開き、私が居候させてもらっている部屋とは逆方向…師範の部屋がある方へと足を進めた。
師範の腕に抱かれ、一度も足を踏み入れたことのない師範の部屋に連れてこられた私は、何故か当たり前のように師範の布団の中にいた。
100歩譲って同じ布団に収まるのは良しとしよう。けれども現在の私はただ単に師範と同じ布団に収まっているだけではなく
「……利口でかわいい奴…なにより暖けェ…」
師範の胸板に収まっているような状態だった。
……待って…これはちょっと…流石にまずくない?
犬の姿をしているとは言え私の中身は人間…柏木すずねだ。師範…つまり男性と同じ布団に入り、その胸板(しかも素肌)に身を寄せているこの状態は、誰がどう見てもよくない。