第45章 このまま犬になりたい✳︎不死川さん
……野良犬相手にはこんなにも優しいなんて…本当に複雑
私が師範に掛けてもらえる言葉と言えば
”倒れてる暇ァあんならさっさときりかかって来いやァ!”
”んな弱ェ鬼に手間取りやがって継子破門にすんぞォ!”
”とっとと食って寝ろこのクソがァ!”
なんて厳しいお言葉たち。
なのに
「熱ィかもしれねェからな?気ィつけて食えよ?」
私(犬)が食べれるよう柔らかく煮てくれた白米を私の目の前に置いた師範は、私がもし本物の犬であれば一生そばに置いて欲しいと思ってしまうような優しくて暖かい人だった。
与えられた食事をハグハグとすべて平らげ(犬の姿でもお腹はちゃんと空くんだもん我慢できなかったんだもん)、ぴちゃぴちゃと水を飲み終えた私は
…はふぅ
と息を吐く。
その直後
「…チッ…あの馬鹿野郎ォ…任務が長引くようなら鴉飛ばせって言ったのによォ…ちっとも連絡よこしゃしねェ…」
先ほどまでの穏やか声色とは一変、私が知っている鬼の師範が顔を出した。
その変貌具合と、私(人ね)に対する怒りの感情に
ビクッ!
と身体が跳ねてしまう。
師範はそんな私の様子に気が付くと
「お前のこと言ってんじゃねェよ?この邸になァ、もう一人住人がいるんだがァそいつのことだ。馬鹿で弱くてよォ…どうしようもない弟子で困ってんだァ」
私の顔の側面を、手の甲で優しく撫でた。師範の心地いい手の感触に嬉しさを覚えながらも
……そんなの…わかってるよ
師範、それから私を師範の継子にするようにと直々に命令を下してくれたお館様に対し申し訳ない気持ちが込み上げ、元々なかった自信が、さらにしょんぼりとその姿を小さくしていく。
けれども
「…そういやァお前…あいつとどことなく似てんなァ」
私の顔をまじまじと観察しながら発せられた師範のそんな言葉に
……っいやぁぁあ!バレた!?バレたの!?ぶち殺されるぅぅう!!!
落ち込みよりも焦りの感情が上回ってしまった私は、目をひん剥き固まってしまう。