第45章 このまま犬になりたい✳︎不死川さん
そんな師範の行動たちに
……その優しさを…人間の私にも少しでいいから見せてくれないかなぁ
と、再び思ってしまうのは当然のことだ。
師範は、私を洗い終えると、桶に張った浅い湯に私を浸けてくれた。犬の姿になったとて、疲れた身体に湯はとてもしみるもので
……はふぅ
と、桶の中でまったりとお座りをしてしまう。
師範はそんな私に”しばらくお利口で待ってなァ”と声を掛けると脱衣所の方へと出て行った。
けれどもすぐ脱衣所から戻ってきたかと思うと
…っやだぁぁぁん!
一糸まとわぬ姿で私の前に座り込んだ。
無理無理!上半身は見慣れてるけど…下半身は無理ぃぃい!目のやり場に困るぅぅう!
大事なところは幸い見えていないものの、普段お目にかかることのない下半身…臀部や太ももが私の視界にばっちりと入ってしまった。
「…っワン…ワンワン!」
「どうしたァ?すぐ終わらせてやるから待ってなァ」
「ワン!ワンワァー」
「腹減ったのかァ?あと少しだから待ってろな」
……っもう!違ぁう!
そんな私の心の声が師範に届くことはなく、私は、師範の筋骨隆々な身体から視線を外しクゥンクゥンと鳴き続けるほかなかった。
腰に手拭いを巻いた師範に優しく身体をふかれ、屈んだことでチラリと見えてしまいそうになる師範のソレに私の小さくなった心臓は爆発寸前だった。
けれどもチラ見えしてしまいそうなドキドキ以上に私の胸を騒がせたのは
”湯はきもちよかったかァ?”
”かわいい顔してんじゃねェか”
”ここにおいてやれりゃァいいんだけどなァ”
……何…何なのその優しい顔と声…もう本当…変な扉が開いてしまいそうだからやめて欲しい…!
私が知っている鬼の師範とは180度異なる、甘くて優しい師範の顔だった。
着替えを終えた師範はソワソワと落ち着かない私の輪郭を(犬のね)優しく撫で
「……外の天気は酷ェが、ここは安全だァ。怖がる必要はねェよ。飯出してやるから、食えるだけ食え」
そう言うと、私の小さな身体をスッと抱き上げその腕に収めてくれた。