第44章 雨上がり種植えつけられる✳︎煉獄さん※裏表現有
「慌てる必要はない。甘露寺の相手をしながら食事の準備をするのは大変だったろう?母上も昔、千寿郎を足にくつけながら食事の準備をしていた」
そう言った杏寿郎さんの表情は、どこか愁いを帯びており、なんだか切なくなってしまう。
私は杏寿郎さんが笑ってくれればと思い
「それじゃあきっと私たちの子も、千寿郎さんやこのかわいい蜜璃ちゃんのように、台所までやってくるんでしょうね。きっも杏寿郎さんに似てたくさん食べるでしょうから、杏寿郎さんに出す前に、ご飯がすべて食べられてしまうかもしれませんよ」
おどけた口調でそんなことを言ってみた。
すると、蜜璃ちゃんを抱き上げていた途中の杏寿郎さんが、不自然な態勢でぴたりとその動きを止めた。
急に動かなくなった杏寿郎さんの顔を、蜜璃ちゃんは不思議そうに目をぱちくりさせながら見ている。かく言う私も
……どうしたのかな…?
お握りをお皿に移す手を止め、そんな杏寿郎さんの様子をじっと見てしまう。あまりにも見事に動きを止めているので
「…杏寿郎さん?」
私が声を掛けると、杏寿郎さんは我に返ったようにピクリと眉を動かした後
「…なんでもない!」
それだけ言い残し、蜜璃ちゃんを抱いて、隣の部屋へと行ってしまった。
……変な杏寿郎さん
そう思いながらも、私は止めていた手を再び動かし、杏寿郎さんの食事の準備を(それから蜜璃ちゃんの追加分も)進めたのだった。
「美味い!」
「きゃはははは」
「わっしょい!」
「きゃはははは」
「……お2人とも、楽しいのはわかりますが、今はお食事中ですよ。もう少し、静かに食べられたらいかがですか?」
卓を隔てた向こう側で漬物やおにぎりを頬張っている杏寿郎さんを、私のお膝に腰掛けている蜜璃ちゃんがとても楽しそうに見ている。
その手には、私が握ってあげたおにぎりが、しっかりと持たれており
…幼子とは言えさすが蜜璃ちゃん……下手したら私よりもたくさん食べているかもしれない…
小さくなってもその食欲旺盛さは変わらないようで、やはり小さくなっても蜜璃ちゃんは蜜璃ちゃんだと安心してしまった。