第43章 水着と下着、その差はいかなるものか✳︎【暖和】※微裏有
すると
「違う!!!」
「…っ!?!?!」
杏寿郎さんの、耳にキーンと響くほどの大声が私の鼓膜を大きく揺らした。
杏寿郎さんの大声に、一瞬近くにいた人たちの視線全てが私たちのほうに注がれてきたものの、やはりみんな自分たちが楽しむことの方が優先なようで、あっという間に散っていった。
「…っ杏寿郎さん…声を抑えてください…!」
水面に下げていた視線を杏寿郎さんの方へと向けながら、私が慌ててお願いすると
「…すまない…すずねを誤解させまいとつい力が入ってしまった」
杏寿郎さんは眉の両端を下げ、気まずそうな表情を浮かべていた。けれどもすぐ、いつものキリリとした表情に戻り
「誤解しないでほしい」
私の目をじっと奥の奥まで覗き込むように見つめてきた。
……誤解……"似合ってない"…訳じゃないってことだよね…?
若干の不安を抱いたまま、杏寿郎さんのそれを見返していると、杏寿郎さんの手が、胸元を覆い隠している私の手に重ねられた。
「とても似合っている。それに、似合っているだけではなく…」
杏寿郎さんはそこで一旦言葉を切ると、私の、胸元を覆い隠していた手を優しく取り払うようにどかし
「とてもそそられる」
私の耳に唇を寄せ、囁きかけるようにそう言った。
「…っ!?」
"そそられる"
杏寿郎さんの照れた顔が見たい、という極めて不純な理由から選んだこの水着だが、まさか"そそられる"などと言う言葉を掛けられるとは思っておらず、頬にカーッと熱が集まってきた。
「…っ…それは…褒められているのでしょうか…?」
なんと言ったらいいか分からず、遠慮がちにそう尋ねると
「あぁ」
杏寿郎さんは短くそう答えた。けれどもその後
「だが同時に、"何故そのような水着選んだのか"と…文句を言いたい気持ちがあるのも事実」
眉間に僅かな皺を寄せながらそう言った。
「…文句…ですか…?」
「うむ!」
杏寿郎さんは快活な返事をすると、私の右手を優しく包んでいた手を離し、その手で、ぷかぷかと水面に浮いている私の水着のレース部分を摘んだ。