第43章 水着と下着、その差はいかなるものか✳︎【暖和】※微裏有
「…あ…あの…杏寿郎さん…?」
杏寿郎さんの一連の行動から、私が懸念していたようなことで杏寿郎さんの表情や行動がおかしくなっているわけではないことは分かった。
「………」
それでも、相変わらずの杏寿郎さんの様子に、私はどうしていいのかわからない。
そんな状態のまま杏寿郎さんに湯船の方まで連れていかれ
……あ、思ってたよりもぬるい…
なんて感想を抱きながら、とうとう湯船に足を踏み入れた。
杏寿郎さんはそのまま人を避けるようにじゃぶじゃぶと波を立てながら歩き続け、湯船の一番際の方まで歩いていく。
途中女の子のグループが、横を通った際、杏寿郎さんの鍛え抜かれた身体、そして整った顔を見ながら目をキラキラさせ何かを話していた。
けれども、杏寿郎さんががっちりと抱いている人物、つまり私の姿を目にした途端、あからさまに肩を落としていた。
そんな様子に、”すみませんね。杏寿郎さんは私の夫なんです”と心の中で適当な謝罪の言葉を述べる私は、やはりいい性格をしていると思う。
湯船の一番際まで来ると、湯船の中に大人2人くらいが座れる長方形の椅子になっている部分が何か所かあった。杏寿郎さんはまっすぐとそこに進み、そのうちの一つに腰かけた。
腰かけるだけならまぁいいのだが
「…っ杏寿郎さん…これはちょっと…」
杏寿郎さんは人目も憚らず、空いている隣のスペースに私を座らせるのではなく
「いいや。君はここでないとだめだ」
長くスラッと伸びた脚の間に私を座らせた。
「…っ…ダメって…こんなに人がいるところで…いい大人が…こんな風にくっついているのは…ちょっと…」
ぬるくはあるものの、温かい湯につかった状態で、こんな状況になってしまえば、私の頬はいとも簡単に、そしていつも以上に熱を帯びてしまう。
「気にする必要はない。ほら、あそこいるカップルを見てみるといい」
「…え?」
杏寿郎さんの顔の向きに倣い、私もそちらの方に顔を向けてみる。すると
……なんて大胆な…
下半身が湯船につかっているのではっきりとはわからないが、彼氏と思われる男性の太ももに彼女が横向きに座っており、辛うじて唇は触れ合っていないものの、触れ合ってもおかしくない距離感で見つめあっていた。