第43章 水着と下着、その差はいかなるものか✳︎【暖和】※微裏有
…わざわざどうして…?
そう思わなくもないが、杏寿郎さんがこのプリンが欲しいと言うのであれば、喜んであげたいと思うのが杏寿郎さんを心の底から愛している私という人間の性である。
右手に持っていたスプーンの柄を左手に持ち替え
「はいどうぞ」
杏寿郎さんが受け取りやすいように差し出すと
「違う。そうじゃない」
杏寿郎さんが、僅かに不満げな表情を浮かべながらそう言った。それから
”あーん”
という効果音がぴったりな様子で口を開け、私の瞳を二人きりの時に見せてくれる甘えたそれでジッと見て来た。
「…っ!?」
まさかこんなところでそんな風にされるとは思っておらず、私は思わず言葉に詰まってしまう。
視線だけを動かし周りの人たちの様子を探ってみると、誰一人として私と杏寿郎さんを気にしている人はいない。
先ほども述べたが、杏寿郎さんがこうして欲しいと望むことは、出来る限り叶えてあげたくなるのが杏寿郎さんを心から愛する私の性。
左手に持ち替えていたスプーンを再び右手に戻し、スプーンの先にのったプリンを杏寿郎さんの口元へと持って行くと
パクリ
杏寿郎さんはなんの躊躇もなくそれを食べた。
「美味い」
嬉しそうに目を細め、普段よりも更に口角を上げている杏寿郎さんの様子に
「…っもう一口どうですか…?」
私は思わずそう尋ねてしまう。
「いいのか!?ではお言葉に甘えていただこう!」
そうして結局、残っていたカボチャのプリンは杏寿郎さんの胃袋へと収まって行った。
傍から見ればホテルのビュッフェ会場でこんなことをしている私と杏寿郎さんは所謂バカップルに見えるに違いない(カップルじゃなくて夫婦だけどね)。それでも、そんな他人の目など二の次だと思えてしまうほどに、私は杏寿郎さんを愛したくて堪らない。
プリンを食べ終え、テーブルを後にした杏寿郎さんと私は、ビュッフェ会場の入り口にある売店へと向かった。そこで今回のチケットをくれた瑠火様の生徒さん、それから煉獄家、そして今回相談にのってくれた先輩へのお土産を購入することにした。