第43章 水着と下着、その差はいかなるものか✳︎【暖和】※微裏有
”たまには2人で若者らしい場所に行ってみてはどうでしょう?”
なんて言葉と共に、ホテルのプレミアム招待券を差し出されたのはついこの間の出来事。
瑠火様に言われたその言葉をそのまま先輩に伝えると
「あぁ…義理のお母さんの言いたいこともちょっとわかるわ」
なんて呆れた顔をされてしまう。けれども私としては、何故そんな顔をされるのかいまいち理解できず、口に運ぼうとしていたそれはもう綺麗に巻かれただし巻き卵を運ぶ手が止まってしまった。
先輩はそんな私に何とも言えない表情を向けると
「あなた達、結婚して1年も経ってないはずなのに熟年夫婦感がすごいんだもん」
半ば呆れたような口調でそう言った。そんな先輩の言葉に
「……熟年夫婦…!」
私はつい嬉しくなってしまった。すると先輩は途端に呆れた表情へと変わり
「いやいや喜ぶところじゃないから」
と苦言を呈されてしまう。私が”すみません”なんて適当に謝っていると、先輩は缶コーヒーの横に無造作に置いてあったスマートフォンを手に取り
「鰯の空に行くってことは、イケメン歴史教師の夫と天空露天風呂に入るために水着を買わなきゃいけないけど、どんな水着を買えばいいかわからない…だとかそんな相談でしょ?」
ヒョイヒョイと画面を操作しながら言った。
「流石鋭いです!」
私はおしゃべりをしながらようやく食べ終えたお弁当箱をしまい
「候補はいくつか絞ったんです!どれがいいと思います?」
「どれどれ」
スクリーンショットで保存しておいた画像を順番に見せて行く。先輩は、眉間に皺を寄せながらそれらを見終えると
「どれも駄目ね」
はっきりきっぱりそう言った。
「…どれも駄目?どうしてですか?」
私は、自分に似合いそうな水着を2着。それから杏寿郎さんの好みに合いそうなのを2着、計4着の水着を選んでいた。
まさかその4着どれも先輩のお眼鏡にかなわないとは思っておらず、首を傾げそう尋ねてしまう。
「あのね柏木さん」
「はい何でしょう」
まるで業務中に注意を受けるようなその口調に、背筋が自然と伸びてしまう。