第43章 水着と下着、その差はいかなるものか✳︎【暖和】※微裏有
「先輩」
「なぁに?」
時刻は12時50分。私は休憩室で先輩と向き合うように座りながらお昼休憩を取っていた。
私は瑠火様お手製の栄養バランスが整ったお弁当をつつきながら、正面で野菜のたっぷり挟まったクロワッサンサンドに噛り付いている先輩に話しかける。
「ちょっと相談に乗ってもらいたいんですけど」
私がそう言うと、先輩は咀嚼していたクロワッサンサンドをゴクリの飲み込み、ブラック缶コーヒーを一口飲んだ。
「なになに?イケメン歌舞伎俳優の旦那と喧嘩でもした?」
「何度も言っていますが、私の夫は歌舞伎俳優ではなく歴史担当の教師です」
「化粧してない状態であの眼力ってどういうことなのかしらね?」
「猛禽類みたいで素敵でしょう?」
「ひゃー。惚気ちゃって…ごちそうさまで~す」
おどけたように言う先輩がおかしくて、私はクスクスと笑ってしまう。
「ほらほら話がそれちゃったじゃない。相談って何?」
話がそれた原因は先輩にあるにも関わらず当たり前のようにそう言ってくる先輩に、更に笑いがこみ上げて来そうになる。その件に関して突っ込みを入れたいような気もしたが、残念ながら昼休みの時間は限られている為、心の中で突っ込むだけに留めておいた。
「実は今度夫とHOTEL鰯の空に行くことになったんです」
「へぇ。いいじゃん!鰯の空って天空露天風呂が有名なところでしょ?」
「はい」
「SNS映えするって若者に人気らしいね。でも、あなた達夫婦がそんな人の集まりそうな場所に行くなんて珍しいね。どっちかって言うと隠れ宿とかの方が好きじゃん」
先輩はそう言うとクロワッサンサンドの最後の一口をぱくりと口に含んだ。
「義母がお稽古の生徒さんからもらったらしくて……」
”たまには2人で若者らしい場所に行ってみてはどうでしょう?”
なんて言葉と共に、ホテルのプレミアム宿泊招待券を差し出されたのはついこの間の出来事。