第42章 推すのに忙しい私を押してこないで*煉獄さん
さっさとお邸に戻り、この熱い気持ちを日記にしたためなければと思った私は
「それでは今日は本当にありがとうございました。これにて失礼いたします」
煉獄様に深く深くお辞儀をし、その場を後にした。
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邸に着いた私は着替えを済ませ、ルンルン気分で戸棚の奥に隠してある日記を取り出した。
「みっつり様~強くてかわいいみっつり様~笑顔がすってきなみっつり様~」
誰にも聴かせることが出来ない自作の歌を口ずさみながら座卓に腰かけ日記を開こうとしたその時
”失礼!!!柏木は戻っているだろうか!!!”
「…へ?」
邸の玄関の方から、先ほど別れたばかりの煉獄様の声が聞こえてきた。
…煉獄様…私に…なんの用があるんだろう…?
開いていた日記を閉じ”はぁい!ただいま参ります”と返事をしながら、慌てて玄関へと向かった。
草履をひっかけ急いで扉を開けると
「すまない。どうしても確かめたいことがあり来てしまった」
猛禽類のような瞳がふたつ、私のそれをジッと捉えてきた。そのあまりにも鋭い視線に、思わず後ずさりしそうになる。
「いらっしゃいませ煉獄様。……えっと…特に用事もないので問題ありませんが…どうかなさいましたか?」
私は首を僅かに左に傾けながらそう尋ねる。
「用事というほどの事ではない。悪いが、先ほどの言葉をいま一度言ってはもらえないだろうか?」
「…先ほどの言葉?」
煉獄様に求められていることがいまいち理解できず、私の首の傾きが激しくなる。
「……いらっしゃいませ煉獄様…?」
とりあえず、直近で煉獄様に投げかけた言葉を繰り返してみるが
「違う!それじゃない!」
「…どうかなさいましたか…?」
「そうじゃない!」
煉獄様の望む答えにたどり着くことが出来ない。