第42章 推すのに忙しい私を押してこないで*煉獄さん
「あ!蜜璃様のお口元に食べかすが!その手で…その手で優しく取ってあげて!そうそうその調子…って引っ込めたぁ!?蛇柱様ったら頑張ってぇぇえ!!!」
草むらで一人、双眼鏡を覗き込みながらぶつくさと小声で言っている私は誰がどう見ても不審者である。自分でもそれを理解しているからこそ、決して人目につかない場所を探し当てたのだ。
「あぁぁぁあ!何その慈愛たっぷりな視線!そんな目で蜜璃様を見つめるなら…もうさっさとお気持ちを伝えて蜜璃様を幸せにして差し上げてよぉぉお!!!」
決して誤解しないでもらいたいのは、私は別に好き好んでこんな風に覗きをしているわけじゃない(…ごめんなさいやっぱり好きです)。
そもそも蛇柱様にお会いした当初、私は何故蜜璃様が自ら好んで蛇柱様とお会いになるのか理解できなかった。
”甘露寺の屋敷に転がり込んだという迷惑女はお前か。万が一甘露寺に迷惑をかけるような事があってみろ。即屋敷から引きずり出してやる”
威嚇する猫のような視線を私へと向けそんなことを言ってくる男に、好印象を持つ人間などいるはずがない。
蛇柱様と会うのだと、蛇柱様から文が届いたのだと、満開の花が咲くように微笑みながら教えてくれる蜜璃様を見ていると、私の心にも同じような花が咲く気すらした。
それでも
”あんなお人の何が良いんだろう?”
そんな疑問が必ず私の頭に浮かんできた。そして
”蜜璃様にはもっと相応しいお人がいるはず”
…と、図々しくも思っていた。
そんな私が心から蛇柱様を応援するようになったのは、たまたま食事を共にしている2人に遭遇した際の出来事がきっかけだ。
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あの日も蜜璃様は、いつものように空になったお皿を何枚も重ね、幸せそうな笑みを浮かべながら食事を取っていた。
そんな蜜璃様の姿を見かけた2人組の男が
”あんな食いしん坊の女。いくら見た目がよくてもお断りだよな”
”腹が異次元にでも繋がってんじゃねぇの?”
嘲るように笑いながらそんなことを言っていたのだ。もちろんそんな会話を耳にして、”蜜璃様命!”の私が我慢できるはずもなく、自分の力量も考えず食ってかかってしまったのだ。